コンパ男にディナーショーを連続開催したら｢工藤静香｣を求められた話

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やまとなでし子
大和撫子の対極にいるアラサーJK(女子会社員)

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寡黙な男性を相手にディナーショーを開催

それは合コンで出会った男だった。

初対面での印象は180cmを超える大柄な体格に似合わず、口数が少なく寡黙で物静かな優しい印象の男性。正直なところ夫婦漫才が出来るくらい饒舌な男性が好きな私にとって、第一印象の彼はあまりタイプでは無かった。

ただ、婚活という場でほんのわずかな時を一緒に過ごしただけでは相手の真の良さはわからない。ほんの僅かな時間で自分の良さを伝えなくてはならない婚活の場は人見知りの人にとっては特に不利である。

多くの時間を過ごすことでじわじわと魅力が出てくるスルメタイプの男性もいるはず、ということでよっぽど悪印象ではない限りは頂いたお誘いは必ず受けるようにしていた。

そんな寡黙な彼に誘われて二人でご飯に行くことになった。二人きりになると大人数の場よりは口数が増えるものの殆どの時間を私が話している。それを温かい笑顔で見つめ続ける彼。

質問を投げてもあまり打ち返してこず流れが止まるため、私がひたすら会話と話題を広げて話し続けることになる。ご馳走になったその日の帰路、まるで私は食事代を対価にディナートークショーを開催したかのような気持ちになった。

そしてその日もまたラインが届いた。

「楽しかった。また会いたい」と。

ありがたいことに彼は私のディナートークショーをお気に召されたようだが、私は彼の寡黙さのブレイクスルーにまだ可能性をかけていた。

今のところそれ以外で悪いところは見つからないし、とても優しく大らかで結婚にはぴったりの相手である。まだ人見知りをしているかもしれないし、打ち解ければ好きになれるかもしれない。

婚活をしたことがある人ならきっとおわかりいただけるであろう、この人を好きになれれば終わる、もう少し知れば好きになれるかもしれない、そんな気持ちにかけてその後も何度かデートを繰り返した。

頭も良く、相手をスマートに気遣える優しい男性でレディーファースト、財布は一切出させないという素敵さでありながら、やはりあまりにも寡黙すぎて毎回私のトークショーが繰り広げられる現実に少し疲れかけていた。

なんなら場を持たせるため、今週起こった面白い出来事や次に話題にすることを記録するネタ帳さえ作っていた。

怒りのきっかけは「コンタクト」

5回目のデートは鎌倉へドライブすることになった。

これだけデートを繰り返しながらまだ告白はしてこないんだなぁという気持ちと、自分自身の気持ちはまだ固まっていないのでまだ告白しないで欲しいというワガママな気持ちの狭間でデートを翌日に控えたその日、彼からのラインはいつもと様子が違っていた。

「コンタクトが取れない」

はい？

「大丈夫？」

「コンタクトが目から取れなくて1時間くらい格闘している。」

「目薬をさしてもダメ？どうしたんだろう。」

「全然とれない！ネットで安いやつを買ってみたけど全然合わなくてダメだった。クソっ！！イライラしてきた！！！」

あんなに寡黙で温厚だった彼がいつになく饒舌である。
しかも内容はコンタクトレンズへの怒り。

あれだけ心が広く穏やかだった分振り幅が大きく感じ、私は恐怖してしまった。

「大丈夫？落ち着いて」となだめるものの、返信をするたびに返ってくるコンタクトレンズへの更なる怒りはどんどん増長して語気が強くなっていく。

「ふざけるな！！これはなんなんだ！！不良品じゃないのか！！目が赤くなってきた！！！あぁイラつく！！！」

彼の怒りボルテージが上がれば上がるほど、私が彼に抱いていた「いい人パラメーター」がどんどん下がっていく。

彼とのラインのトーク画面が一面のコンタクト怒りbotと化したころで彼のコンタクトがやっと取れた。

一安心すると共に私は思った。

「明日…めちゃくちゃ行きたくねぇな…。」

小さいコンタクトでブチギレた体のデカイ彼。
あんなにも心が広いと思っていた彼がキレたこの小さな出来事。

ちっちゃいことは気にするな！それワカチコワカチコ〜♪

私と彼、どちらがゆってぃになるべきなのか…答えは出ないまま約束の翌日を迎えることとなった。

「昨日はごめんね〜」
メガネで登場した彼から会うや否や饒舌に繰り広げられるコンタクトレンズトーク。

お前、いままでそんなに饒舌だったことあったか？？

突然にぶつけられた昨日の怒りをわだかまりとして残しながら、あまりの流暢なトークに動揺しつつ大変だったねと当たり障りのない相槌を打ち続ける私。

そしてコンタクトレンズの話題が一通り終わると、いつも通り寡黙な彼に戻った。

…ですよね。

「ずっと俺のターン！！！」

初めての早朝からのデート。
朝から一日、遊戯王もびっくりの永遠に私のトークショーターンになるのか…？！
コンタクトレンズカードを早々に使い切った彼に対し、私はネタ帳に収めた話題カードを一枚ずつ提示しながら1日を過ごした。

ディナーでももちろん私の話をにこにこしながら無言で聞いている彼に私は聞いてみた。

「まだ私に対して人見知りとか、緊張してる？？」

「ううん、全然」

そうか…まだ人見知りしているかも知れない、これからもっと饒舌になるかも知れないと可能性にかけて五回のデートを繰り返してきたけれど、出会った当初からそれが彼の全てだったのか…

しかも唯一の彼のターンはコンタクトレンズへの怒り…

いい大人は手を繋いだだけでは付き合えない

もうダメだ…

これを最後にしようと決めた帰りの車の中で彼がふと口を開いた。

「今度、星野リゾートにでも行かない？」

「いや、付き合ってもいない人と泊まりはしないよ。」

「えぇっ！！！？」

彼は突然今までにないくらい動揺し、口を開いた。

「5回もデートしてるし、手も繋いだしもう付き合ってるんだと思ってた…」

えええええーーーーーーー！！！！！！

いくら寡黙でも、何も言わないで付き合えると思ってたんかーーーーーい！！！！！

目と目で通じ会えるのは工藤静香だけですし、いい大人は手と手を繋いだだけでは通じ合えません。

あれ？もしかしてお主ヒト科じゃない？？
私はれっきとしたホモ・サピエンスなので言語的コミュニケーション能力を持ち合わせておりますゆえ、言語で伝えていただきたいです！！よろしくお願いします！！

とは言いませんでしたが、焦った彼は今まで付き合うのに告白したことがないと言い訳をしながら告白をしてきましたが丁重にお断りすることとなりました。

ワタシ、ジンルイ。コトバ、ダイジ。ミンナ、ダイジナコト、チャント、コトバニシテ、ハナセヨ。

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