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「花魁」や「花魁言葉」とは?

花魁のイラスト

花魁とは

花魁(おいらん)とは吉原遊廓(よしわらゆうかく)の遊女で、その中でも最高位の高級遊女のことを指します。
現代の高級娼婦や高級愛人のようなものではありますが、花魁は大名や一部の富裕層しか会うことができず、自分の権力の誇示やステータスを表す存在としてとても位の高い存在でした。

その当時、成功者の証とも言えるのが懇意の花魁がいることで、そして馴染みとして認められるようになれば疑似夫婦とも言えるような、手厚い待遇もありました。
そのため誰もが羨むこの関係性のために、お客は何度も足を運び膨大な金額の投資が必要でした。

花魁には「呼び出し」「昼三」「付け廻し」の3つの階級があり、中でも最上位の花魁が「呼び出し」です。
「呼び出し」クラスの花魁になると、身の回りの世話をする見習い遊女を付け、会うためには揚屋に仲介してもらう必要がありました。

上位の花魁ともなると花魁がお客を選ぶことができたため、お客は目当ての花魁に気に入られるために必死だったようです。
また江戸時代に入ると女性も化粧をするようになったため、華やかな花魁は男性だけではなく女性からも憧れの存在でした。

江戸時代において花魁とは、どんな人々をも魅了する気高い存在だったのです。

花魁言葉とは

独特の言葉遣いが魅力的な花魁言葉ですが、廓詞(くるわことば)、ありんす詞、里詞とも言われています。
代表的な言葉に「〜ありんす」や「〜なんし」という言い回しがあり、一般的な言葉よりも妖艶さや艶かしい雰囲気があります。

また花魁言葉にはシャレのきいたハイセンスな言葉も多くあり、花魁の魅力をより高いものにしています。

花魁言葉は縁起の悪い言葉を変換して使う?

花魁の後ろ姿

日本には昔から語呂合わせなど、言葉による験担ぎを大切にしてきました。
花魁の世界でも言葉は大切にされており、花街では縁起の悪い言葉は縁起の良い言葉に置き換えて使うという風習がありました。

例えば、「さる」という言葉の置き換えが代表的です。
お客様が「去る」ということは遊郭にとってはとても縁起の悪いことのため、動物の猿も「さる」とは言わず反対の意味になる「得て(エテ)」と表現していました。

エテ公やエテ吉という言葉が現代にもありますが、これは猿と表現しているのです。
「さる」を「えて」のように言い換える表現は、日本独特の文化であると考えられます。

花魁言葉が使われるようになった理由

紫色の着物を着た花魁

花魁言葉が生まれた背景には、吉原遊郭は当時各地方から遊女が集められていたという経緯があります。
自ら身を投じる者もいれば、貧しい家族のために身を投じる者もいて、そのほとんどが田舎から売られてきた少女でした。

吉原の花魁は高嶺の花で、そんな神秘的で気高い存在でいるためには、田舎出身ということは絶対に隠さなくてはならず、遊女たちは徹底的に花魁言葉を叩き込まれ、その結果多くの男性を虜にしてきました。

江戸初期に使われていた花魁言葉一覧

江戸をイメージするお面

花魁言葉はその時代によって少しずつ変化していきます。
まずは江戸初期には使われていた花魁言葉を見ていきましょう。

①:よたろう

「よたろう」とはお客を罵る言葉で、現代語に言い換えると「この野郎」といったニュアンスになります。
汚い言葉も言い換えるだけで印象が変わり、それが花魁言葉の魅力のひとつでもあるでしょう。

②:しわ虫太郎

ケチな客のことを、遊郭では「しわ虫太郎」と言っていました。
花魁は接客業であるため、お客に対する悪口は隠語で表現していました。

他に「油虫」はお金がない冷やかしだけの客、「塩次郎」はうぬぼれた自信家の客などがあります。
遊女にとっては売上は何よりも大事だったため、このような客はとても迷惑だったことでしょう。

③:金茶金十郎(きんちゃきんじゅうろう)

「金茶金十郎(きんちゃきんじゅうろう)」という長い言葉は、現代語に言い換えると馬鹿の一言です。
他にも現代では全く通じない言葉があり、「あよびゃれ」は歩け、「早くうっぱしろ」は急げとなります。

④:ぞっとする

現代では恐怖心を感じるようなことに遭遇し、体が震え上がるような感情を表現するときに、ぞっとすると言いますよね。
その意味とは異なり、花魁言葉の「ぞっとする」というのは、タイプのお客を見つけたときに表現する言葉です。

この「ぞっとする」とは、タイプの人を見つけて震え上がるような喜びを表現しているのでしょうか。
同じ言葉でも、ここまで意味が違うというのはとても面白いですね。

⑤:むしかたい

「むしかたい」もしくは「むしがいたい」はお腹が痛いという意味です。

⑥:語りましたし

ゆっくりとお話がしたいというのを、花魁言葉で「語りましたし」と表現します。
花魁言葉には「〜なんし(〜してください)」や「見なんし(見てください)」「おいでなんし(またいらしてください)」のように、くださいというのを「〜し」で表現していました。

⑦:ほんに

誠に、本当と言うときは「ほんに」を使います。
現代でも関西の方では「ほんに」を耳にする機会がありますが、特に古風な表現として京都で使われているでしょう。

⑧:こそぐったい

「こそぐったい」とはくすぐったいのことです。
現代ではくすぐったいは標準語として使われていますが、くすぐったいの元は大和言葉のこそばゆいから来ており、くすぐったいというのは関東地方で使われていた方言と言ってもいいでしょう。

こそばゆいが花魁言葉の「こそぐったい」に変わり、くすぐったいと表現されるようになったと言われています。

⑨:てんとう

神に誓ってという意味ですが、同じ意味で「しんぞ」という言葉もあります。
「しんぞ」は手紙を書くときに使う言葉で、「てんとう」と使い分けがされています。

⑩:しんもじ

花魁言葉には文章のときにだけ使う言葉があります。
「しんもじ」とは本心という意味です。

前述の「てんとう」に加え、他には「すいさんがまし」といって無礼だと意味する書き言葉があります。
同じ意味でも話し言葉と書き言葉で使い分けるのは、現代でも使われている手法です。

江戸中期に使われていた花魁言葉一覧

遊郭のイメージ

江戸初期に比べると、現代でもなんとなくわかる言葉が増えてくるのが江戸中期の花魁言葉です。
時代によって少しずつ花魁言葉は変化をしていきます。

①:おかさん

女将さんは「おかさん」と呼び、ご亭主さんのことを「ごてさん」と呼びます。

②:主(ぬし)

現代では「主(ぬし)」というと一家の主人などを指しますが、花魁言葉では異なり、自分のお客のことを「主さん」と呼んでいました。
時代劇で「お主も悪よのぉ」なんて言葉を耳にしたことがあるかと思いますが、この「お主」はあなたやおまえと言っているのです。

他にも相手を意味する言葉があり、「かのさま」はあのお方様、「おてき」はあなたというのがあります。

③:頓痴気(とんちき)

面倒な客に対して罵る言葉です。
「頓痴気(とんちき)」とは、間抜けなことを意味します。

④:新五左(しんござ)

新五左衛門の略で武士のことを指します。
遊郭では田舎武士のことを「新五左(しんござ)」と言い、軽蔑したり馬鹿にする言葉として使っていました。

⑤:饅頭くさい

「饅頭くさい」とは斬新な言葉ですが、これは禿げの人に対する悪口です。
現代語に言い換えると「この禿げ親父!」と罵っているのでしょう。

禿げのことを「饅頭くさい」と表現するところが、花魁言葉のハイセンスさを表しているように感じます。

⑥:下卑蔵(げびぞう)

卑しいことや、卑しい人のことを「下卑蔵(げびぞう)」と言い、漢字で表しているとおり、まさに意地汚い下品な様を表しています。
「げびぞう」の他に「げびすけ」と呼ばれることもあったようです。

⑦:どうしんしょう

「どうしんしょう」と聞くと、なんとなくイメージがつくかと思いますが、まさに現代語に言い換えるとどうしましょうとなります。

⑧:よくいうものだ

現代語に言い換えるとわかりきったことだとなります。
現代では「よく言うよ」といった表現は、馬鹿なことを言うなよというように、馬鹿馬鹿しいことをいった人を罵る表現として使われていますので、花魁言葉の「よくいうものだ」とは微妙にニュアンスの違いがあるようです。

⑨:ほんだんすかえ

花魁言葉の「ほんだんすかえ」とは本当ですか、「ほんにか」は本当かという意味になります。
江戸初期でも使われていた「ほんに」と同じで、「ほん」が本当という言葉にあたります。

⑩:〜なんす

現代語に言い換えると〜なさいますとなります。
「〜んす」が〜ますという意味を持ち、「行かんす(参ります)」「言いなんすな(言わないでください)」と言うように表現されます。

現代の「〜ます」より「〜んす」の方が、色気があるように聞こえますね。

江戸後期に使われていた花魁言葉一覧

江戸の街並み

江戸後期になると花魁言葉はさらに増えていき、現代でもわかるような言葉が出てきます。
時代劇やアニメなどで聞いたことのある言葉もあるかもしれません。

①:わちき

「わちき」とは「私」のことを指します。
「あちき」と表現することもあり、花魁や遊女など上級女郎が自分のことを「わちき」もしくは「あちき」と言っていました。

中下級の女郎は「わっち」と言い、階級によって「私」の言い方にも使い分けがされていました。

②:あの人さん

「あの人さん」とは、名前のわからないお客のことを言います。
名前のわからないお客に対する呼び名があることに、とても小粋な印象が伺えます。

③:おいでなんし

言葉の意味をそのまま捉えると「こちらにおいで」となりますが、意味としてはいらっしゃいませになります。
江戸後期では「おいでなんし」「おいでなんしぇ」が、江戸初期や中期では「ゆきなんせ」「きなんせ」「きなんし」と表現されていました。

江戸後期にいくにつれて、私たちにもわかるような言葉に変化しています。
また長野の一部地域では「おいでなんし」は今でも使われていますが、「いらしてください」「いってらっしゃい」という別の意味になっています。

④:やめなんし

「やめなんし」はやめなさいという意味です。
「〜なんし」という表現は良く使われており、現代語の「〜なさい」にあたります。

「よしなんし」はよしなさい、「どうともなんし」はどうとでもしなさいとなります。

⑤:おがむによ

「おがむによ」もしく「おがみいす」は人に何かを頼むときに、お願いしますという意味で使われていました。
一見何を言っているのか理解しにくい言葉ですが、「拝む」とは心から頼むということなので、お願いしますというニュアンスは見て取れるでしょう。

⑥:待ちなんし

「待ちなんし」とはちょっとお待ちなさいという意味です。
最近「待ちなんし」などの花魁言葉を使うアニメがあったため、なんとなく聞き覚えのある言葉ではないでしょうか。

⑦:もちっといなんし

「もちっと(もうちょっと)」「いなんし(いなさい)」ということで、私たちにもわかりやすい言葉かと思います。

⑧:こはばからしゅうありんす

馬鹿らしいことを「こはばからしゅうありんす」と言います。
ここで出てきた「ありんす」ですが、私たちが最もイメージする花魁言葉ですよね。

ですが、実際には「〜ありんす」とは上級にいる遊女が使っていた言葉で、そんなに頻繁に使われる言葉ではなかったという説があります。

⑨:てもせわしのうざんす

「てもせわしのうざんす」を、現代語に言い換えると慌てなさるなとなります。
花魁言葉には語尾に「ざんす」をつけることが多く、「ようざんす(結構です)「ほんざんす(本当です)などがあります。

お金持ちの女性が「〜ざます」という言葉を使うのをドラマなどで耳にしますが、元は花魁言葉から来ています。
またおそ松さん(おそ松くん)に登場するイヤミが「ざんす」と語尾につけますが、これも元を辿れば花魁言葉と言えます。

⑩:いい雨だっけね

「いい雨だっけね」は早く帰れという意味で、いつまでも帰ろうとしない客に対して皮肉る言葉として使われていました。
遊女は接客業のため、直接的な表現よりも間接的な表現でお客のことを罵ったり皮肉ったりしていました。

現代でも皮肉る言葉はありますが、どこか色気があり粋な言葉選びをするのが花魁言葉の特徴で、独特な雰囲気を醸し出しているでしょう。

現代でも使われている花魁言葉

花魁の街

江戸初期〜江戸後期までの花魁言葉を辿っていきましたが、現代でも日常的に使われてる花魁言葉は多数あります。
その意味を調べてみると、改めて花魁言葉とはハイセンスな言葉だということに気付かされます。

①:アタリメ

今でも使われている花魁言葉で代表的なものが「アタリメ」です。
アタリメはスルメのことを指しますが、「スル」という言葉が金品を盗み取る「スリ」を連想させる縁起の悪い言葉とされたため、「スル」を「アタリ」に変えてアタリメと呼ぶようになりました。

②:相方

「相方」とはお笑いコンビのパートナーのことを指しますが、元は花魁言葉です。
「相敵(あいかた)」と表現し、お客に対する花魁のことを「相敵」と呼んでいました。

③:お茶を挽く

暇を持て余すことを「お茶を挽く」と、水商売など夜の世界ではそう表現します。
独特な言い回しではありますが、これはお客がつかず暇を持て余した遊女が、お客に出すお茶を挽かされていたことに由来します。

そのため暇=お茶が連想されるため、遊郭ではお茶は縁起が悪い象徴でした。

④:あがり

お寿司屋で聞く「あがり」とはお茶のことを意味しますが、なぜ「あがり」というのかご存知でしょうか?
遊郭ではお茶という縁起の悪い表現を避け、お客に出す最初のお茶を「お出花」、最後に出すお茶を「上がり花」と表現していました。

それが短くなって「あがり」となり、現代ではお寿司屋で使われる専門用語として根付いたようです。

⑤:おてもと

お箸を「おてもと」と表現するのも花魁言葉から誕生したという一説があります。
花柳会では「端」は縁起が悪いとされていました。

そのため同じ発音である「はし」は避けられ、「端」の反対である「手元」から「おてもと」になったと言われています。
それがそのまま受け継がれ、今でも箸袋には「おてもと」と記されています。

アタリメやエテと呼ぶ発想と同じで、この表現の仕方こそ日本語の魅力と言えるでしょう。

⑥:馴染み

現代でも「〇〇でお馴染みの〜」といった言い方がありますが、私たちが表現する馴染みというのは、周知やご存知と言ったような意味になりますよね。
花魁言葉の「馴染み」とは、同じ遊女の元へ何度も通い常連となったお客と親密な関係になることを指しており、現代とは少し違った意味で使われていました。

また馴染みになると浮気は許されないため、他の遊女に変えること、他の妓楼に行くこともご法度とされていました。

⑦:もてる

人気があってちやはやされることを「もてる」と表現しますが、遊郭では品格のあるお客は丁寧にもてはやされていました。
そのため遊女から人気のあるお客のことを「もてる」と表現し、それが同じような意味合いで現代では人気のある人に対して言われる言葉となりました。

花魁言葉は「ゆびきりの歌」に関連がある?

指切りをする花魁

子どものときに約束ごとをしたらよく歌っていた「ゆびきりげんまん嘘ついたら針千本飲ます」というこの歌には、遊女に関連する逸話があると言われています。

吉原の遊女は意中の男性に、自分の小指の第一関節を切って贈っていました。
これは永遠の愛を誓う証という意味です。

小指以外にも髪の毛や爪を贈ることもあり、自分の体の一部を贈ることで愛の証明をしていたようです。
実際は売上向上のためのテクニックとも言え、死体の小指を切り落として自分の小指として異性に贈っていたと言われています。

ですが自分の体の一部を贈るという愛情表現の仕方は、戦の多い乱世ならではの考え方と伺えます。
そしてこれが現代では約束を守るという意味に変化し、ゆびきりの歌が生まれました。

げんまんとは「拳万」を意味し、1万回ゲンコツをするということです。
何気なく歌っていた「ゆびきりげんまん嘘ついたら針千本飲ます」とは、とても恐ろしいことを言っているということがわかります。

江戸時代の文化を象徴する花魁

花魁のいる花街

どんな人々をも魅了して来た花魁は、権力やステータスの象徴として、唯一無二の気高い地位を持つ遊女だということがわかりました。
そんな華やかに見える花魁ですが、その裏には売られてきた少女など悲しい一面もあります。

それを隠し高嶺の花として輝くための方法として、花魁言葉は誕生しました。
花魁言葉はその由来を紐解いていくと、現代にはない奥ゆかしさと、粋な表現が込められています。

戦乱の絶えない時代だったからこそ花魁という華やかで気高い遊女に、多くの男性は夢を見たに違いありません。

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ライター
noel編集部

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