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西野芙美さん(写真左):早稲田大学文化構想学部卒。人材紹介会社、出版社勤務を経て2017年にTENGAに転職。

工藤まおりさん(写真右):津田塾大学数学科卒。リクルートグループで人材派遣事業に関わったのち、2015年にTENGAに転職。

昔に比べ個性が認められやすい世の中になってきたとはいえ、まだまだ女性が性についてオープンに語ることはタブー視されているのが現実。

事実西野さんと工藤さんも、性について発信することで「スケベ女」「ヤラせろ」などと心無い言葉をなげかけられ、性の対象としてみられることも多いそう。

そんな中でもめげずに「女性の性」についてメディアで発信し続けている彼女たちの想いや考え方、世の女性に伝えたい性の話を、伺ってきました。

性を楽しめる女性が増えてほしい

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――そもそも性に関する情報を発信するメリットは、何なのでしょうか?

工藤まおり(以下、工藤) あまりメリットという観点で考えたことはありませんが、私自身性について、特にセルフプレジャーについて公言するようになってから、すごく心が楽になったんです。

なので私が顔を出して性について発信することで、「私も性を楽しんでいいんだ」って思える女性が増えるといいなと思います。なので強いて言えば、性を楽しみたいのに楽しめていない女性が性を楽しめるようになることが、私のメリットですね。

西野芙美(以下、西野) 私もメリットを考えたことはありません。もともと大学でジェンダーについて勉強していたので、性についてオープンに議論することが当たり前の日常でした。メリットという観点で話すなら、性についてフラットに話すことで、人の楽しみ方も学べて、性に関するバリエーションが増えたことがあげられますね。

でもオープンに発信する理由は工藤と同じで、私たちが「性について話してもいいじゃん」と堂々と発信することで、女性の気持ちが軽くなったり、肯定感を増すことが目的です。

――コミュニティによって、性について話す人・話さない人を分けることはありますか?

工藤 私の場合、コミュニティによって分けるというよりは、相手との関係性の深さによって分けていました。何度かお会いして自己開示ができるようになってきた人には、話しやすいですね。でも相手に聞くのではなく、私が話したかったら話す感じです。相手に話すことを強要はしません。

――普段興味がなさそうにみえても、実は性への関心がある人は多いのではないでしょうか。

工藤 セルフプレジャーの話をしたときは興味がなさそうだった女性から、後日呼び出されて「実は私もやっているの」と打ち明けられたことがあります。おっしゃるとおりで、その場では堂々と話さなくても、性の話題ってみんなが気になる部分ですよね。

女性の半数以上はセックスについて悩みがあるといわれているし、自分が生まれたのも性がきっかけだし。もっと女性が自分の性を肯定的に話せるようになったらいいな、と思います。

女性が性的な事柄に罪悪感をもつのは、他人の目を気にするから

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――性に関してオープンに話すようになってから、ご自身に変化はありましたか?

工藤 私の場合、性の話はできても、自分がセルフプレジャーをしているかどうかを話すのは抵抗があったんです。でもそのハードルを超えてからは、セルフプレジャーに対する罪悪感がなくなって、「楽しんでもいいんだ」って気持ちが増したと思います。

――罪悪感がなくなると、セルフプレジャーを心から楽しめるようになる、と。

工藤 これは悪い行為じゃなくて、楽しんでもいい行為なんだ、という価値観ができました。性に対する肯定感ができることで、セックスも楽しめるようになったと思います。

たとえばセックスした後に「ここが良かった」とお互い意見交換ができるようになりました。お互いが気持ち良いところを伝えあうと、セックスをより楽しめるようになりますよね。

西野 セルフプレジャーに対して罪悪感をもつのはなぜかというと、他人の目が気になるからだと思います。女性のセルフプレジャーは世間的にはやってはいけないこと、いやらしいことだと思われていますよね。そういった世間の目を気にして、罪悪感が生まれると思うんです。

それはセックスに対しても同じ。言うなれば彼氏は一番身近な"世間"ですよね。「嫌われたらどうしよう」「引かれたくない」と相手にどうみられるかばかり気にしてしまうと、心から楽しめません。

でもセックスは自然な行為だと認めると、「自分はどうしたい?」と自分に問いかけるマインドに変わってゆきます。もちろんセックスはコミュニケーションだから、彼がどうしたいかも大事です。

でも相手に合わせるだけじゃなくて「私はこうしたいけど、あなたはどうしたい?」と問いかけることで、コミュニケーションにつながるし、より満足感を得られると思います。

性を楽しみたい女性を拒否る男性は足切りすべき

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――パートナーと深いコミュニケーションがとれる関係性って、どうやって築いてゆくものなのでしょうか。

西野 私が嫌だと伝えたことを「いやいやそんなことないでしょ」とかわす男性とは、まず付き合いません。私が意見を言ったときに、まず一度受け止めて、その上で相手が考えを伝えてくれたときに、関係性の糸口ができると思っています。そこから「この人なら受け止めてくれるかも」って思ったらもっと話していけばいいんじゃないかな。

工藤 人生全体で考えて「社会人は会社に勤めなきゃ」とか「女性は子育てに専念すべき」みたいな固定概念に縛られている男性は、性の話も受け入れてくれないかも……と思っちゃいます。どんな話であれ一度受け止めて考えてくれる、その姿勢が大事ですよね。

女性が性を楽しんだり、性に関する発言をすることに嫌悪感を抱く男性もいるので、そういった男性は選ばないことも大切です。

西野 足切りが大事ですよね(笑)。

工藤 そうそう(笑)。「女性はこうあるべき」って頭ガチガチの男性に対して「私はこういうセックスが好きだから一緒にやろうよ」って問いかけ続けるのってストレスになるし、結構難しいんですよね。相手の男性がすごい好きだったらがんばってもいいけど……。

ひとつ言えるのは、彼自身もセックスに関する欲求があると、こちらからも提案しやすいですよね。映画でエッチなシーンを観て「これいいね」って話したときに「俺はこういうのも好き」って話に乗ってきてくれたり。

最初からセックスの話をするんじゃなくて、映画のワンシーンとか軽いところからだと、入っていきやすいんじゃないかな。

西野 男性側も、考えすぎて遠慮しちゃっている方は多いと思います。だから軽いノリで女性から伝えてみると、「あ、言っても大丈夫なのかも」って男性側も思ってくれそうですよね。

ananとかのセックス特集も、入り口としては入りやすいんじゃないかな。「ザ・セックス本」じゃなくて、ファッション情報とかも載っているおしゃれな雑誌だし。それをみながら「こんなかわいいグッズあるんだね」とフランクに話題をふってみるとか。

「ヤラせろ」と言ってくる男性の背景を考える

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――性をオープンに語ることで、知らない男性から性欲の対象としてみられることも増えたとききます。「スケベ女」「ヤラせろ」といった暴言を吐かれると、どう感じますか?

西野 そんなのほとんどノイズですよね。その上で、「なんでこの人はこんな発言をするんだろう」って、その人の背景を考えるようにしています。正しい性知識に触れる機会があまりにもなさすぎて、AVなどのファンタジーをお手本にして勘違いしている男性も一部いると思うんです。なので「これはこの人のせいじゃなくて、この人を取り巻く環境が悪いんだ」って考えますね。

そう考えると、じゃあこんな風潮をなくすためにはどうすればいいのか?って建設的なことを考えられるようになりますよね。目の前の相手一人ひとりに対して怒るより、そういう人を生み出す社会をどう変えようって考えた方が早いと思うんです。

工藤 イライラしたときは「なんで男性はああいう風に勘違いしちゃうんだろう」と考えるようにしています。そもそもセックスの目的において、男女に根本的な違いがある場合もあるんです。とあるデータによると、男性は性的快楽を得ることが一番の目的なんだけど、女性は性的快楽ももちろんなんだけど、一番の目的はコミュニケーションをとることだったんですよね。

で、セルフプレジャーは性的快楽の部分が大きいじゃないですか。人って物事を考えるときはどうしても自分中心に考えちゃうから、「この子はムラムラしているからセルフプレジャーしているんだ、ってことは俺とセックスできるかもしれない」って考えちゃうのかな、と。

西野 男性の方が性欲に対してポジティブにとらえやすい社会風潮がありますよね。だから男性からみえる景色だと「セルフプレジャーを公言している女はヤレる」みたいな考え方になってしまうんだと思います。

工藤 それを変えるために、私は「セルフプレジャーを公言している女性は、別にセックスがしたくて公言しているわけじゃないんだよ」ということを発信するようにしています。男性もそれを理解すれば気をつけるようになるはずだし。私たちが発信することで、社会が少しずつ変わってゆけばいいな、とは思います。

――性に関して心無い発言をしてくる男性の、撃退法などあれば教えてください。

工藤 私は相手にも自己開示を求めるようにしています。たとえば「セルフプレジャー何回しているの」ってぐいぐい聞いてくる男性がいたといます。そういう人には、「私の話を聞きたいならまずはあなたの話を教えてください」って言うようにしています。

それができるかできないかによって、その男性が真面目にセルフプレジャーの話をしようとしているのか、ただ自分の好奇心を満たすために質問しているのかが分かります。そこの質問をはぐらかす男性には、私も「まあそんな感じですよ」と当たり障りのない回答しかしません。

西野 性の話題をふられたときに、穏やかに淡々と話すのも大事です。恥ずかしがるとその時点で性的対象として見られやすい。普通に淡々と話すと、恥じらいを期待している男性は「あ、ちょっと違う」と思ってどっか行ってくれます(笑)。

自分の身体を知るためにも、セルフプレジャーは大事

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――セックスで快楽を得られない女性は、多いですよね。

西野 去年、婦人科形成や膣のリフトアップなどを手がけている女性医師・喜田直江先生に、女性の快感について話してもらうトークイベントを開催しました。そのときも不感症の悩みはとても多いとおっしゃっていたんですけど、まずは自分で自分の気持ち良いところを把握しないとダメらしくて。

男女は身体のつくりがまったく違うので、一発で気持ち良いところを引き当ててもらうのは難易度が高いんです。セルフプレジャーを行って、自分が気持ち良いところを自分で見つけた上で、相手に伝えるのが大事です。

――そもそもセルフプレジャーのやり方が分からない女性も、多い気がします。

西野 セルフプレジャーは「オーガズムに達するかどうか」を意識しがちですが、それだけが気持ち良さではありません。たとえばクリトリスって、人間の体の中で唯一快楽のためだけに存在する器官らしいんですよ。だからそこをちょっと弱い刺激で触ってみると、体がほぐれる気持ち良さは感じてもらえると思います。

自分の体の声に耳を澄ませて、リラックスするつもりで行えば、オーガズムを得られなくても気持ち良いかな、と。

工藤 私もオーガズムに達することは必ずしも求めなくていいと思います。もちろん達した方が気持ち良いかもしれないけど、まずはクリトリスを優しく触ってみるのがスタートですよね。

女性の場合直接触れるのに抵抗がある方もいますが、宣伝するみたいであれなんですけど……、弊社の女性用ブランドirohaには、1200円ほどで買える女性用のセルフプレジャーグッズもあるんです。そういうグッズをクリトリスにちょっとあててみるのは、気持ち良さへの第一歩だと思います。

西野 セルフプレジャーほど簡単に自分で自分を喜ばせることができる行為って、なかなかないと思うんです。たとえば読書はリラックス効果が高いといわれています。なぜかというと、読書は現実から切り離された別世界に集中することができて、現実を忘れることがリラックスにつながるらしいんです。

セルフプレジャーは読書に似ているなと私は思っていて、自分なりのイマジネーションをいだいて行うことができますよね。そうやって自分だけに都合の良い世界をつくりあげて自分の体を気持ち良くできる。セルフプレジャーは、手軽に自分を愛せる行為なんですよ。

自分の幸せは自分で決める

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――嬉しい効果ばかりのセルフプレジャーですが、やっていることを必死に隠す女性は多いですよね。

工藤 私の場合は周りの目もあるけど、もともと自分の頭の中でしちゃいけない行為って認識がありました。セルフプレジャーをすると、私はいけないことをしている人間なんだって頭の中で考えちゃう部分があったんです。

私のようにセルフプレジャーはしちゃいけないっていう認識がもともとある女性は多いはず。それを公言することによって、「しちゃいけないことをしている自分」を再認識して、気持ちが暗くなってしまうのかな、と思います。

西野 人は他人の目を内面化して自分自身の考えとして捉えてしまいがちなので、「セルフプレジャーは悪いことなんだ」と信じ込んでしまうんですよね。でも本当は悪いことではないし、自分が気持ち良いと思う行為をしているだけなのだから、罪悪感を抱かなくていいはずなんです。

――他人の目を内面化した自分から開放されるのって、難しい気がします。

西野 かなり俯瞰した視点が求められるので、難しいと思います。でもこれからそういう見方はとても大事になってくるはず。昔はとりあえずお見合いするか、ちょっと会社勤めて恋愛結婚して専業主婦、っていう勝ち筋がみえていたけど、今はみんながみんな同じ道を歩んで幸せになれるわけじゃないし、自分で選んでいかなきゃいけない時代ですよね。

そういうときに「私は普通の女の子だからこうするべき」みたいな固定概念に縛られていると、そのレールで過ごして数十年後に「私ほんとにこれで良かったのかな?」って後悔する瞬間が訪れそう。それがすごく怖いなって思います。

私は本当は何がしたいの?私の幸せってなんだっけ?って考えるのって、それこそアラサー世代の女性にとって大事なことだと思うんです。

――自問自答をし続けることが大切ですよね。

工藤 私は毎日自問自答しています。「私、今幸せ?」って。今の時代は人の生き方が多様化してきているので、自分の幸せって全部自分で決めていいんですよ。だからセルフプレジャーに関しても、これはしてもいい行為なんだって自分で認めてほしいなってすごく思います。

しちゃいけないことなんてないはずなんです。犯罪とか人に迷惑かけることはダメだけど、少なくとも女性のセルフプレジャーが周りに悪い影響は与えないですよね。女性のセルフプレジャーはいけないことって、誰が決めたの?誰が決めたか分からないんだから、気持ち良いことはしていいって自分の中で定義して、生活に落とし込んでほしい。

「私の幸せは私が決める」って堂々としていられる世の中になればいいな、って思います。

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ライター
まこと

慶應義塾大学経済学部卒。美容メディアにてコンテンツ制作を経験後独立し、現在は多数メディアにて執筆中。恋愛・結婚についてよく語る東京ノマド女子。

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